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大阪地方裁判所 昭和62年(ヨ)3147号 決定 1988年2月17日

申請人

田宮正輝

申請人

永田利雄

申請人

原野清

申請人

中田勝康

申請人

藤原修三

申請人

長谷川定郎

申請人

田宮政秀

申請人

竹田和克

右申請人ら代理人弁護士

小林保夫

右同

橋本二三夫

右同

高橋典明

右同

池田直樹

右同

飯高輝

被申請人

日野興業株式会社

右代表者代表取締役

積田庄之助

右訴訟代理人弁護士

二階堂信一

右同

寺島健造

右同

飯塚義次

主文

一  申請人らが、いずれも被申請人の従業員たる地位を有することを仮に定める。

二  被申請人は、申請人らに対し、昭和六二年七月一日以降本案判決確定に至るまで毎月末日限り、申請人長谷川定郎については月額金二二万円、同田宮政秀については月額金二五万円、同竹田和克については月額金三〇万円、その余の申請人らについては各月額金四〇万円の割合による金員を仮に各支払え。

三  申請人らのその余の申請は、いずれもこれを却下する。

四  申請費用は被申請人の負担とする。

理由

(当事者の申立)

一  申請の趣旨

1  被申請人は申請人らを被申請人の従業員として仮に取扱え。

2  被申請人は、申請人らに対し、昭和六二年七月から毎月末日限り、別紙平均賃金目録記載の各金員を仮に支払え。

3  申請費用は被申請人の負担とする。

二  申請の趣旨に対する答弁

1  本件仮処分は、いずれもこれを却下する。

2  申請費用は申請人らの負担とする。

(当事者の主張の要旨)

第一申請の理由

一  被申請人は、肩書住所地に本社を有し、仮設式トイレ、浴室、物置等の製造販売並びに賃貸借を業とする株式会社であり、千葉、仙台、宇都宮、上田、名古屋、金沢、大阪、岡山、広島、福岡に各営業所を、市川、羽曳野等に倉庫を有している。

二  申請人らは、いずれも被申請人大阪営業所(以下、大阪営業所という。)で自己の保有するトラックを持込んで、被申請人の製造する組立式仮設トイレ、浴室等の組立、据付工事並びに解体撤去工事(以下、本件工事という。)に従事する者であり、被申請人との間で、それぞれ本件工事に従事する旨の契約(以下、本件契約という。)を締結した。

三  本件契約については、その契約時に契約書が作成されているわけではないが、本件契約の法的性質は雇用契約であり、申請人らは、労働基準法上の労働者である。

その理由は、次のとおりである。

労働法上の労働者(本件では労基準(ママ)九条)か否かの判断にあたっては、契約形式によって決めるべきではなく、契約当事者間に労務提供について実質的使用従属関係があるか否かによって決めるべきであり、基本的視点としては、第一に、使用者側に労働法上の使用者の諸責任や労働者保護の規制を免れるための非労働者化政策があるかどうか、第二に、両者の間に市民法の適用を行うべき実質的な対等性があるかということであり、具体的な基準としては、企業運営上の不可欠性、契約締結過程における使用従属関係、労務遂行過程における使用従属関係、賃金等について考察する必要がある。

(一) 企業運営上の不可欠性

申請人らの業務は、組立式仮設トイレ、浴室等を被申請人の指示に従い、被申請人羽曳野倉庫(以下、羽曳野倉庫という。)からイベント会場・建設工事現場・選挙事務所等の設置場所へ運搬し、組立て、据付工事並びにこれらの解体撤去工事をすることである。

被申請人は、前記一記載の営業を目的とするものであるが、被申請人の事業の主力は、仮設式トイレ等の賃貸リースである。

ところで、被申請人がユーザーに仮設式トイレ等を賃貸し、使用可能な状態におくためには、設置場所ヘトイレ等を運搬し、本件工事が必要となる。しかしながら、大阪営業所には、申請人らを含む一一名以外に本件工事を行う社員はいなかったのであり、専ら申請人らを含む一一名が工事を行っていたのである。

ただ、大規模な工事の場合、申請人らが繁忙を極めている場合等の例外的場合に、申請人ら以外の工事請負業者、運送業者、販売代行店らが本件工事を行っていたが、その工事量は少く、工事量の九〇%以上は申請人らを含む一一名で行ってきたのである。

このように、被申請人の事業の主力である仮設トイレ等の賃貸は、申請人らの行う本件工事を必要不可決とし、しかも工事量の九〇%以上を申請人らを含む一一名で行ってきたのであるから、被申請人の事業は、申請人らの業務を抜きに成り立たないものであって、まさに、被申請人の企業運営上不可欠なものなのである。

このことは、被申請人が申請人らを含む一一名を解雇した後、申請人らに代って工事を行う者を緊急に募集せざるを得なかったことからも明らかである。

(二) 契約締結過程における使用従属関係

申請人らは、被申請人と契約を締結するに当って、被申請人方に出頭して面接を受け、また、その際申請人らの多くは履歴書を持参し、さらに被申請人が一方的に決定した単価表を示され、被申請人が示した条件について交渉する自由は全く有さず、被申請人が一方的に決定した条件を承諾するか否かの二者択一を迫られるのである。そして、トラック以外の設備や特殊技能等を有しない申請人らは、生活を営むためには、被申請人の示した条件を承諾しない自由さえもなかったのである。

このように、申請人らは、契約締結過程において、被申請人との間で全く対等の立場にはなく、被申請人が一方的に決定した条件を承諾するしかない立場におかれていたのであるから、契約締結過程における対等性を前提とする請負人とは明らかに異なるといわなければならない。

(三) 労務遂行過程における使用従属関係

(1) 業務従事に対する諾否の自由

本件工事に関し、申請人らは、前日に翌日の工事について、被申請人の一方的指定にかかる指令書を交付され、それに従うことが義務付けられているのである。この指令書は、申請人らが承諾してはじめて交付されるものではなく、申請人らが一日の業務を終え、羽曳野倉庫に戻った際に、被申請人から一方的に交付されるのであり、申請人らに諾否の自由などないのである。

このような指令書の交付状況と前記申請人らの業務の企業運営上の不可欠性からすれば、申請人らに業務従事の諾否の自由などありえない。

(2) 時間的・場所的拘束

申請人らは、一日の作業終了後、羽曳野倉庫に戻り、翌日の現場ごとの本件工事指令書を受取っているが、本件工事指令書には、各現場の工事着工時間が記載されている。申請人らは、平均して一日三カ所程度の現場で本件工事をすることを指示されるのであるが、一日の最初の現場での工事着工時間は、当該現場の遠近にかかわらず、午前八時ないし同九時と指定されるのが常である。

そして、第二現場以降についても本件工事指令書で、それぞれ着工時間を指示されているのであり、その時間に拘束されているのである。そのため、申請人らは、前の現場での工事が予想外に長引くなどにより指定時間に遅れる場合には、必ず被申請人へ事前に連絡をし、その指示を迎がなければならなかったのである。

もっとも、工事時間の指示のない場合もあるが、これは年数回といった極く稀な例外的場合であって、前述の時間的拘束の原則を左右するものではない。

また、申請人らは、その日予定された工事が全て完了すると、申請人らに義務付けられている完了報告を行うとともに、翌日の工事指令書を受取り、かつ翌日必要な製品および資材をトラックに積み込むため、羽曳野倉庫に戻ることになる。この場合、一日の施行件数が少なく、本件工事が早い時間に終り、早く羽曳野倉庫に戻れたとしても、翌日の工事指示は平均して午後三時ころ以降にならないと決らないことから、翌日の工事内容が判明する午後三時になって、はじめて申請人らは、翌日必要な製品および資材をトラックに積み込むことができるようになるのであり、しかも工事指令書によらなければ、翌日の工事現場の正確な位置が判らないので、工事指令書が必要不可欠であるところ、右指令書が羽曳野倉庫に送られてくるのは、平均して午後五時以降なので、申請人らは工事指令書が届く午後五時以降まではトラックへの積み込みが完了しても帰宅することができず、事務所で待機しなければならないのである。工事指令書を翌朝現場に行く前に羽曳野倉庫に立ち寄って受取る方法も考えられるが、前述のとおり、本件工事の工事着工時間として、午前八時ないし午前九時と指示されるのが常であることから、右方法を採ることは時間的に大変な困難を伴うので、結局、申請人らは、本件指令書の届く午後五時以降まで待機することを余儀なくされるのである。

このように、申請人らは、午前八時ないし午前九時から、少くとも午後五時ころまでは、工事の完了の有無にかかわらず被申請人に拘束されているのが実態である。

また、業務場所は、被申請人から交付された工事指令書に記載された現場を一方的に指定され、そこで業務を行うことを義務付けられているのである。

(3) 兼業の自由

前記のとおり、申請人らは、午前八時ないし午前九時から午後五時までは完全に拘束されているのであるから、兼業することは全く不可能であり、申請人らに事実上兼業の自由がなかったことは明らかである。

(4) 業務遂行過程における被申請人の一般的指揮監督

申請人らが業務を遂行するに当っては、事前に工事指令書を交付され、申請人らはこれに従うことを義務付けられている。

現場において具体的に本件工事を遂行するに当っても、工事内容に変更が生じた時及び変更が生じそうな時、納入する商品に部機不足や不良品がある時、リース工事で細かな部機で新品を使用した場合、解体引上時、その商品が破損している場合、施工後、受領書に客のサインをもらえない時、事故及び車輌事故が発生した場合等、あるいはポケットベルが鳴った場合等に被申請人の指示を仰ぐことを義務付けられているのである。

さらに、工事が終了すると、申請人らは、被申請人に対し、当日のうちに一件毎に詳しく正確に完了報告を行うことが義務付けられているのである。

このように、申請人らは、外勤労働者として、現場監督こそいないものの、工事の前後を通じて監督に服し、申請人らの業務遂行過程について、被申請人の一般的指揮監督が及んでいるのである。

(5) 業務用具の負担関係

本件工事には、トラック、発電機、電気ドリル、サンダーホース、ホルソ等の工具が必要であるところ、トラック、ホルソ、を除く大きな工具はすべて被申請人所有のものを使用していた。

申請人らが右工具を所有していなかったということは、申請人らが請負人として独立に営業を行う能力を有しなかったことを示すものである。

なお、申請人らは、トラック、ホルソ、を自己所有しているが、これらは、本来被申請人が申請人らに提供しなければならないものであるところ、申請人らに負担させることにより被申請人において経費を節減し、また、事故等による使用者責任を回避しようとしていたものとみるべきである。

(四) 賃金

被申請人が申請人らに支払う金員は、被申請人作成の単価表によって定められており、申請人らが設営する商品毎に単価が決られ、それに運送賃が加算される。

ところで、申請人らと被申請人との間には、前記のとおり、使用従属関係が認める(ママ)ので、申請人らが被申請人から支給される金員は、申請人らが負担する諸経費以外は申請人らの労働に対する対価としての性格を有しており、賃金に外ならないのである。申請人らが被申請人から支給された昭和六二年三月分から同五月分までの過去三カ月間(ただし、申請人長谷川定郎については、昭和六二年三月以降事実上就労を拒否されていたので、昭和六一年一二月分から同六二年二月分まで)の賃金の平均月額は、別紙平均賃金目録記載のとおりである(ただし、本件申請書中に申請人原野清について金五〇万四六五円、同長谷川定郎について金三八万七三〇円とあるは、いずれも、金五〇万四一六五円、金三八万七三三円の各誤記と認める。)。

右平均賃金額は、申請人らが被申請人から毎月末締め翌月末日払いで支給される金額から、申請人らの負担する毎月のガソリン代、車輌費、高速料金代、材料費の諸経費を控除した金額である。

四  解雇の意思表示

1 被申請人は、申請人らに対し、昭和六二年六月二日、工事、運賃の新単価の折り合いがつかないこと及び申請人らの職場放棄、仕事放棄を理由(以下、本件解除理由という。)として、本件契約を解除する旨の意思表示をなした。

2 被申請人が本件解除をするに至った経緯は、次のとおりである。

(一) 昭和六二年三月一〇日、被申請人は、同業他社との競争の激化を理由に、申請人らに対し、工事単価の切り下げ(以下、新単価という。)を提示し、同年四月一九日、その説明会を開催した。そこで、提示された工事、運賃の新価格は、従前の単価に比し、工事については平均四八・三%、運賃については平均一二・五%という大幅な切り下げとなっており、これがそのまま実施されれば申請人らの収入が半減し、申請人らの生活そのものが脅かされる内容であった。

(二) そこで、昭和六二年五月一六日、申請人田宮ら四名が被申請人大阪営業所で、被申請人に対し、五%の単価の切り下げに応ずる旨提案したが、被申請人において拒否し、次いで、同月二三日、申請人らは第二次案を、さらに同年五月三〇日、第二次案より譲歩した第三次案を提示したが、被申請人は、当初の提案に若干の上積み案を提示したのみで、一切の新たな譲歩を拒否した。そこで、申請人らは、六月一日午前一〇時ころ、翌二日の作業を全員が休務し、今後の対応を協議する旨被申請人に伝えた。六月二日、申請人らが羽曳野倉庫に集合して協議中、同日午前一〇時前に、被申請人は申請人らに対し、本件解除事由を理由に本件契約解除の意思表示をなすに至った。

したがって、本件契約が雇用契約であるから、右解除の意思表示は解雇の意思表示に外ならない。

五  右解雇の無効

右のとおり、本件契約解除が解雇である以上、正当な解雇事由が存在しなければならないところ、右解雇は合理的理由を欠き、被申請人の解雇権の濫用によるものであって無効である。

その事由は、次のとおりである。

1 右解雇の本質的理由は、一方的な労働条件の大幅な切り下げに申請人らが応じなかったことに存する。

前記のとおり、被申請人の提示にかかる新単価は、申請人らの従前の生活そのものを脅すものであって到底承諾できる内容ではなく、しかも、被申請人は、新単価案の基本線を崩そうとせず、申請人らを解雇し、新たな人員を募集すれば、新単価をそのまま実施できる旨の発言を繰り返しており、事実、申請人を解雇した後、直ちに新聞広告により新規募集を行っている。

したがって、当初から被申請人には、申請人らが新単価に応じなければ解雇する方針があったことが明白である。

2 被申請人が解雇の理由とする申請人らの「職場放棄・仕事放棄」は、事の実体に反し、解雇の単なる口実にすぎない。

前記のとおり、申請人らが、六月二日、作業を集団的に休務したのは、五月三〇日の交渉が決裂し、早急にその後の対応策を協議する必要が生じたため、緊急にやむを得ずに行ったものであり、しかも、協議が目的である以上、本来六月二日限りの一時的なものに過ぎなかった。さらに、申請人らは、休務するに際し、既に仕事の指示の出ていた六月一日を避け(同日の勤務は行っている。)、未だ新たな指令の出ていない六月一日午前一〇時に翌日の休務について被申請人に届出て、六月二日についても協議が経れば直ちに就労できる準備はしており、被申請人に不必要な業務上の支障が出ないよう十分配慮している。そして、その届出の際、被申請人は、特に六月二日の就労の指示・命令は出していない。このことからすれば、六月二日の申請人らの協議が「職場放棄・仕事放棄」とはほど遠いものであることは明白である。

六  保全の必要性

以上のとおり、申請人らは、被申請人の従業員であるところ、被申請人は、昭和六二年六月二日、申請人らとの契約関係は終了したとしてその地位を争い就労を拒否し、賃金の支払をしない。

申請人らは、いずれも被申請人から支給される賃金を唯一の収入源としている労働者であるから、本件解雇により収入の途を全く失い、申請人及びその家族の生活は著しい危機に陥っている。

申請人らは、現在、従業員地位確認の本案訴訟を提起すべく準備中であるが、本案の確定を待っていては、申請人らの生活が根底から崩壊してしまうため、本申請に及ぶ。

第二申請の理由に対する被申請人の答弁並びに主張

一  申請の理由に対する答弁

1 申請の理由一、二は認める。

2 同三の事実中、申請人らの具体的な業務内容、被申請人の営業内容は認めるが、その余は争う。

3 同四の事実中、被申請人が、六月二日、申請人らに対し、本件契約を解除する旨の意思表示をなしたこと、申請人らと被申請人らとの間で工事単価、運送単価をめぐって交渉がなされたことは認めるが、その余は争う。

4 同五は争う。

5 同六の事実中、被申請人が申請人らとの間の本件契約が終了したと主張し、金員の支払をしていないことは認めるが、その余は争う。

二  主張

1 本件契約は、雇用契約ではなく、被申請人の仮設トイレ等の商品をその指示する場所に、申請人ら所有のトラックによる運搬及び申請人らの資材を用いての設置施工工事を被申請人が発注し、月末締翌月末その代金を被申請人が支払うとの内容の工事施工請負契約である。

その理由は、次のとおりである。

(一) 本件工事施工の実体

(1) 被申請人がユーザー・代理店(以下、ユーザー等という。)から仮設トイレ等の設置、施工並びに解体撤去工事の発注を受けると、それを受けた者が工事指令書にユーザー等の発注内容等を記載し、各工事毎に集計しておき、その工事前日、各方面毎に区分したり、工事内容を検討したりして、申請人らに配布する。それを基に受注管理実行表(配車表)を作製し、大体午前中にファックスで羽曳野倉庫に送信する。羽曳野倉庫では、配車表を見て工事に必要な商品在庫があるかどうかを確認し、ない場合には工事日を遅らせたりして、その間に商品を手配する。

申請人らは、平均して一日仮設トイレ等の設置工事を一、二件、解体撤去工事を二、三件行うが、大体最初の工事を午前八時三〇分か九時ころに取り掛り、全ての工事を午後二時か三時ころ終るのが通常である。

申請人らは、一日の全工事が終了するか、あるいはその目途がついた場合、その完了報告を大阪営業所に電話することになっているが、被申請人は、その工事完了報告を受けた時、被申請人が予定した配車表に基づき、翌日の工事を告知し、申請人らの応諾を受けて右工事を発注するのである。右工事完了報告は、代理店の要請に基づき、被申請人が申請人らに求めているものである。

被申請人としては、申請人らの便宜を考慮して、回り易い方面毎に区分し、また、無臭工事等難しい工事は順番制にするなどして受注し易いように配慮していたので、大体被申請人が発注した工事を申請人らは、そのまま受注してくれていたが、被申請人が発注しても、「その方面にはいかない、その工事はしたくない」などと申請人ちから拒否されることもしばしばあった。被申請人としては、このような場合、他の申請人ら下請業者に発注していたものである。

被申請人の業務内容から、日曜祭日にも右工事を受注する場合もあるが、この工事については、申請人らと同じ工事施工請負業者である角中が嫌がらずに受注してくれたため、同人に主として発注したり、あるいは被申請人の従業員をして行わしめていたのである。

(2) 被申請人としては、ユーザー等より工事前日ではなく、事前に右工事を受注している場合もあるが、受注内容からみると、工事日の三日ないし一〇日前に受注している工事件数は、全体の一割程度、二日ないし三日前が全体の四割程度、工事前日が全体の五割程度を占めており、被申請人は、各申請人に一日三ないし四件の本件工事を発注するが、前記のとおり、申請人らの便宜を考慮して回り易いコース等を設定するためには、全ての工事件数が揃ってからでなくては発注しにくく、また、現場工事のため、変動、突発的要因もあり、工事前日変更を余儀なくされる事態も生じるので、事前発注は難しく、工事前日の発注となるのである。

なお、被申請人は、連棟などの大型工事の場合には、申請人らに工事前日ではなく、事前(少なくとも一週間程前)に発注していたものである。

(3) 申請人らは、右方法で受注すると、羽曳野倉庫に戻り、翌日の工事現場に使う仮設トイレ等の商品及びその工事に必要なブロック等の資材を自己が所有するトラックに自ら積込むのである。

リースの場合には、何度も使用するので、被申請人従業員が補修、清掃していた商品を申請人ら毎に区分し、それを申請人らが積み込み、販売の場合には自分で倉庫まで行き新棟を積み込んでいたものである。商品が組立てられていない場合には申請人らが組立てて、被申請人が組立代金を別途支払っていたものである。その後、午後五時半ころまでに、被申請人から工事指令書を送信し、申請人が右工事指令書を受取って帰宅するのである。

もっとも、申請人によっては、工事現場から直接帰宅し、翌朝、工事指令書と現場に使う商品を取りに来ることもあり、大体四〇パーセント位がこのような方法で行っていたのである。また、業者によっては、工事指令書を待たずに帰宅する者もいたのである。

(二) ところで、当該契約が雇用契約か否かは、当該契約の当事者間に使用従属関係があるか否かによって判断すべきこととなるが、その具体的基準としては、仕事の依頼、業務従事に対する諾否の有無、業務執行過程における使用者の一般的な指揮監督の有無、勤務時間、勤務場所の指定、拘束、労務提供の代替性の有無、業務用具の負担関係、報酬の性格、兼業の有無等があげられ、本件についても、本件工事の業務の実態に則して右基準の検討が必要である。

そこで、前記の本件工事の業務について順次検討する。

(1) 仕事の依頼、業務従事に対する諾否の有無

前記のように、被申請人は、申請人らに対し、予め工事内容を告示し、工事日に工事をするかどうかを確認のうえ発注し、申請人らが受注しない場合には他の請負業者に請負わすか、あるいは被申請人従業員が右工事を行っていたものであって、その諾否の自由はあったのである。申請人の中には、従前被申請人が工事を発注し、一旦受注しても配車表を見て、強引に他の請負業者の工事を横取りするようなこともあり、申請人らは諾否の有無以上の自由を有していたのである。

(2) 業務執行過程における使用者の一般的な指揮監督の有無

被申請人は、ユーザー等から工事時間を指示された場合については、発注する際、その工事時間を指定していたが、この指定がない場合や、指定のなされることの少い解体撤去工事の場合には、時間、工事順序など申請人らの裁量に任されていたのである。

被申請人が申請人らに対し、工事内容に変更が生じ、または生じそうな時等に連絡を求めているのは、被申請人と申請人との工事代金等その内容の改訂が行われる等の事態に対処し、ユーザー等への受注内容の改訂要請のためである。

申請人らは、本件工事以外の被申請人の業務に従事することはなかったのである。

右のとおり、被申請人は、申請人らを指揮監督していたものではない。

(3) 勤務時間、勤務場所の指定、拘束

申請人らは、一日の工事が全て完了した場合、羽曳野倉庫に帰らず、そのまま帰宅する場合も多く、また、一日中仕事がない場合には、倉庫、事務所に出る必要はなく、勤務時間の拘束性はなかったのである。

次に、勤務場所の指定については、その指定もなく、仮にあったとしても、それは、被申請人と申請人との契約内容から必然的に導かれるものであり、これをもって拘束されているというにはあたらない。

(4) 労務提供の代替性の有無

申請人らは、本件工事を家族その他の第三者に代行させることも自由であって、その業務には代替性があったものである。

申請人らにおいても、その家族を使用していたこともあり、また、一旦受注した工事を申請人ら同士で組替えてしまうこともたびたびあった。

(5) 業務用具の負担関係

申請人らは、被申請人から受注した本件工事のほとんど全てを自己が有する工具、資材並びに二トン積貨物自動車を用いて行っていたものであって、被申請人所有の発電機等を使用することは全く稀であった。本件工事に必要な「ホルソ」等は申請人らが被申請人から購入していたのである。

被申請人がその従業員をして本件工事にあたらせるような場合には、申請人らと同じ工事請負業者からブロック等の資材を購入していたのである。

(6) 報酬の性格

被申請人が申請人らに支払う報酬は、被申請人の現業社員に比してはるかに高額であり、本件工事が完了した都度その金額が確定し、固定給的要素はなく、各種諸手当、賞与等は給付されず、源泉徴収等はせず、年令給等も考慮されず、その生活保障的要素もなかった。

したがって、被申請人の支払う報酬には、給与的性格は全くないのである。

(7) 兼業の有無

申請人らは、被申請人取扱い商品を代理店価格により仕入れし、ユーザー等に販売したり、あるいは被申請人より右商品をリースして、それを再リースしたりして、別途販売利益等を得ていたものである。

申請人田宮正輝は、泉州仮設なる名称で、独自の業務活動も行っていたのである。

2 本件契約の解除とその経緯

(一) 前記のとおり、本件契約が請負契約であるところ、申請人らは被申請人に対し、昭和六二年六月一日発注予定の本件工事を今後受注しない態度を表明したため、被申請人は、ユーザー等から契約不履行に基づき損害賠償請求をなされる等の損害を被ることが予想されたので、同年六月二日、申請人らに対し、本件契約を解除する旨の意思表示をなした。

(二) 右解除の意思表示をなすに至った経緯は、次のとおりである。

(1) 大阪営業所においては、現在、一五社程度の競争会社があり、年々競争が激化し、約五年前から赤字決算を余儀なくされ、それが年々拡大している傾向にあったところ、昭和五九年ころ、被申請人と同業のクリーン工業株式会社(資本金一億円、従業員約一二〇名、年商金二五、六億円)が倒産するに至った。

(2) そこで、被申請人は右事情に対処し、競争会社との競争力の維持向上を図るため、昭和六二年三月一〇日ころ、申請人らに対し、工事単価、即ち請負代金の引き下げを要請した。

もともと被申請人の従前の工事単価は、競争会社の各単価に比して高かったので、被申請人が要請した新単価等は競争会社に比べると低いものではなかった。

また、被申請人としては、単価を引き下げてもその分受注量が増えるので、申請人らに発注する右工事量も増加し、そのため、申請人らの収入も現状維持すると思慮していたものである。

(3) 被申請人は、申請人らに対する右単価引き下げの要請後、申請人らと交渉するために、昭和六二年四月一九日を第一日として、同年五月二三日までの間に四回の説明会を催し、申請人らの意見を徴し、この間、一部単価改定案を示し、申請人らに誠実に対応してきた。

ところが、前記のとり、同年六月一日に至り、申請人らが、突然同日発注予定していた本件工事を今後受注しない態度を表明したため、被申請人はユーザー等から契約不履行に基づく損害賠償請求されるなどの損害を被ることが予想されたので、申請人らとの間の請負契約を解除したのである。

(4) 申請人長谷川は、従前より被申請人から工事を受注しなかったり、また、受注した工事を十分に行わなかったりすることが多かったが、特に、昭和六二年一月以降は気まぐれに受注するのみで、同年三月四日以降被申請人の右工事を全く受注せず、そのため、同日以降の右工事を一切行っていないものである。

被申請人は、昭和六二年三月上旬より申請人長谷川定郎と連絡がつかず、その所在がわからなかった。そのため、被申請人において申請人長谷川に対し発注しようにもできなかった。

昭和六二年五月一六日、申請人長谷川は、同田宮政輝らと大阪営業所を訪れてきたので、同所長から仕事をする意思があるならいつから仕事できるか連絡して欲しい旨伝えたところ、同申請人は、体が悪い等といって明確な返答をせず、その後も被申請人に一切連絡をしないまま受注しなかったのである。

右のとおり、申請人長谷川においては、被申請人の本件工事を受注する意思は全くなく、被申請人において同申請人に発注しなかったのである。

(当裁判所の判断)

一  申請の理由第一、一、二の事実は当事者間に争いがなく、本件疎明資料によれば、申請人田宮正輝は昭和四二年ころ、同永田利雄は昭和五九年四月ころ、同原野清は昭和四五年四月ころ、同中田勝康は昭和五九年四月ころ、同藤原修三は昭和五二年九月ころ、同長谷川定郎は昭和四一年ころ、同田宮政秀は昭和六〇年一月ころ、同竹田和克は昭和六〇年六月ころに、被申請人との間に、それぞれ本件契約を締結したことが、一応認められる。

二  申請人らは、本件契約の法的性質は雇用契約であると主張し、被申請人は請負契約である旨反論するので、以下、この点について判断する。

1  まず初めに、本件契約の締結の経緯、本件工事施工の実体について判断する。

本件疎明資料、審尋の全趣旨並びに当事者間に争いのない事実を総合すると、次の事実が一応認められる。

(1) 被申請人は、仮設トイレ、浴室等の製造販売並びに賃貸リース等を業とする株式会社であるが、その事業の主力は、仮設トイレ等の賃貸リースであり、このリースを実行するためには、設置場所へ仮設トイレ等を運搬し、据付工事し、終了後は解体撤去工事をすることが必要であること、申請人らは、被申請人と本件契約を締結するに当り、履歴書を持参して大阪営業所に出頭して面接を受けたこと、その際、申請人らは、大阪営業所担当者から本件工事の概要の説明を受けたうえ、本件工事に必要な資材運搬用のトラックあるいは工具等は、自己の責任と経費負担においてその所有にかかるものを使用し、また、砂、セメント等工事に必要な資材も、自ら調達すること、本件工事の報酬は、予め被申請人側で作成した工事単価表及び運賃表に従って計算された額を支払う、休日は、日曜、祭日とする等の条件を一方的に示されたこと、申請人らは、被申請人から示された右諸条件を承諾して、本件契約を締結し、いずれも、大阪営業所の受注した本件工事を行うようになったこと。

ところで、被申請人の営業目的は、前記のとおり、仮設トイレ等の製造、販売、リースであるところ、大阪営業所において販売し、あるいはリースした右商品の設置及び設置したリース物件の解体撤去工事のうち、大規模な催会場に多数の右物件を設置したり、申請人らが本件工事で多忙を極めてい場合等の例外を除き、その約九〇%程度の工事量を、昭和六二年六月二日当時において申請人らを含む一一名の者が担当していたこと、被申請人は、昭和六二年六月二日、本件契約解除の意思表示をしたが、その直後に、申請人らに代るべき本件工事担当者を新聞広告により募集していること。

(2) 大阪営業所では、ユーザー等から仮設トイレ等の販売あるいはリース等の注文を受けると、工事指令書に発注内容を記載して各工事日毎に集計しておくこと、そして、大阪営業所では工事前日に各現場の所在地、工事内容を検討のうえ、申請人らに、一日分の作業として仮設トイレ等の設置工事一、二件、解体撤去工事二、三件を配分し、それを基に受注管理実行表(配車表)を作成し、午前中にファックスで羽曳野倉庫に送信していたこと、羽曳野倉庫では、配車表に記載されている商品があるかどうかを確認し、その準備をしていたこと、その後、同日午後五時以降に大阪営業所から羽曳野倉庫に、納入先、納入場所及びその現場見取図、工事内容、仕様、着工時間等の記載された工事指令書がファックスで送信されてくること、

他方、申請人らは、後記のとおり、当日の工事経過を報告するため、午後二、三時ころ大阪営業所に電話することを義務付けられていたが、その際、口頭で翌日の本件工事の件数、工事内容の概略、工事施工の順番を一方的に指示され(当該日の全工事について順番が指示される場合と第一番目の工事のみが指示される場合があるが、後者の場合、次順位からの工事の順番は工事現場の地理上の合理的順序と工事指定時間とによって自ら定まることになっていた。)それに従っていたこと、ただし、例外的に被申請人の指示内容のうち、工事順番が地理的にみて不合理であるような場合には、その旨意見を述べ、その順番を変更してもらったり、あるいは申請人らのうち、二人で共同作業をしなければならない場合に、当該申請人らの間に一時的な感情のもつれがあった時には、相手方を変更して欲しいとの申し入れをなし、その様に変更してもらったこともあったが、申請人ら間で自由に工事担当者を交替したり、変更したりすることは許されていなかったこと、そして、申請人らは、工事日前日の午後五時以降か、あるいは工事日当日の早朝に羽曳野倉庫で工事指令書を受取り、これに基づいて各本件工事に従事していたこと、

(3) 申請人らは、前記のとおり工事指令書に基づいて本件工事を行うのであるが、その作業開始時間の記載があればそれに従い、その記載のない場合は、一日の作業開始時間が原則として、午前九時からと指示されていたので、指示された工事順番に従い、遅とも午前九時から工事に着工していたこと、通常の場合、一日の工事終了時間は、大体、午後二、三時ころであるが、前記のとおり、そのころ被申請人から電話で指示された翌日の工事内容からみて、工事現場の関係で当日のうちに翌日の工事の準備をしておく必要のある場合には、羽曳野倉庫に帰り、翌日の工事の準備をしたうえ、工事指令書に記載された現場見取図によらなければ工事現場が確認できないので、工事指令書が羽曳野倉庫に送信されてくる午後五時以降まで同所で待機していたこと、そして、申請人らが指示された本件工事のうち、六〇%程度がこのような方法によってなされていたが、それ以外の翌日の工事現場が近くである場合などには、当日の工事現場から直接自宅に帰り、翌早朝、羽曳野倉庫で工事指令書を受取り、同所で当日の工事に必要な資材等を準備したうえ、工事指令書に記載された現場見取図で工事現場を確認して行く場合もあること、申請人らは、本件工事の態様が右のようなものであったため、被申請人以外の者との間で、業として仮設トイレの販売、リース等は勿論のこと、その他の営業を行う時間的余猶もなかったこと、

(4) 申請人らは、工事指令書により指示された本件工事を施行する準備として、新品の仮設トイレ等の場合には、羽曳野倉庫管理担当者にいちいち承諾を得ることなく、同倉庫の中から必要な商品本体を運び出して組立て、これを自己のトラックに積込み、また、中古トイレ等の場合は、右管理者が配車表に基づいて在庫の中古仮設トイレ等に工事担当者名を書いた紙片を貼付し、その準備をするので、これをトラックに積込んでいたこと、

また、本件工事に必要なブロック、砂、セメント等の資材は、申請人が、被申請人の紹介にかかる業者から購入し、羽曳野倉庫で保管していたものを使用していたこと、羽曳野倉庫は、業務時間中、被申請人従業員が直接管理しているが、時間外は施錠していたこと、しかし、前記のとおり、申請人らにおいて、早朝に当日の工事資材の準備をする場合があるので、申請人らに合鍵を交付したり、鍵番号を教えたりして、自由に羽曳野倉庫に出入りすることを許容していたこと、

(5) 申請人らが本件工事に使用する通常の道具類は、ほとんどが同人らの所有であったが、稀に、工事によっては発電機等の大型機器も必要となる場合もあり、このような場合には、申請人らは被申請人所有の発電機等を使って本件工事を行っていたこと、

(6) 申請人らは、前記のとおり、本件工事に関しては、工事指令書に基づいて施行するのであるが、その際、工事内容に変更が生じた時及び変更が生じそうな時、納入する商品に部材不足や不良品がある時、リース工事で細かな部材で新品を使用した場合、解体引上時、その商品が破損している場合、施工後受領書に客のサインをもらえない時、事故及び車輌事故が発生した場合、等には大阪営業所及び羽曳野倉庫に連絡又は報告をし、その指示を迎ぐこと、及び工事が完了した場合は施工当日に一件毎に、また、工事が未完のとき、又は遅くなる時は速やかに途中経過を報告することが義務付けられていたこと、さらに、申請人らはポケットベルの携帯を義務付けられ、工事中に被申請人からの呼出があり、当日の工事順序、工事時間等の変更、あるいは緊急を要する新たな納入先での工事の施行等の指示を受け、これに従事することも、しばしばあったこと、

(7) 申請人らは、本件契約締結の際、日曜祭日を休日とするとの約定であったので、それ以外の日には、原則として(極く稀れには、全く本件工事の指示されない日もあり、このような場合には、申請人らは羽曳野倉庫に行かなかった。)本件工事の指示を受け、これに従事してきたが、冠婚葬祭等で工事のできない日が予め判っている場合には、大阪営業所に届出て、当該日には本件工事の担当から除外してもらっていたこと、また、病気等の突発的理由で指示された日に本件工事ができない場合には、その旨大阪営業所に連絡し、これを受けた大阪営業所の方でその手当を施しており、申請人ら間で自由に代行を依頼したり、第三者をして施工させたりすることはできなかったこと、申請人らは、いずれも申請人ら各人が一人で本件工事に当っており、家族あるいは従業員を雇って一緒に本件工事をすることはなかったこと、

(8) 本件工事に関して、事故が発生し、発注者に損害を与えた場合、当該工事を担当した申請人らの関与なしに、被申請人側と発注者との間で交渉をすすめていたこと、その結果、被申請人が損害賠償責任を負うに至った時には、被申請人において、当該工事担当者たる申請人に損害賠償をさせるかどうか、賠償責任を負わせるとして、その負担割合、支払方法等を一方的に決め、右申請人にこれを告知してそれを実行してきたこと、

(9) 申請人らの本件工事に関する報酬は、月末締切り翌月払の約定であったが、その具体的支払経緯は、まず申請人らにおいて、被申請人から交付された請求書によって請求し、右請求を受けた被申請人は、被申請人側で定めた工賃表、運賃表に基づいて計算した額を、工賃として申請人らに支払っていたが、その際、社会保険、公租公課等の源泉徴収を行っていなかったこと、本件契約解除の意思表示のなされた日以前の三カ月間(昭和六二年三月分から同五月分まで。ただし、申請人長谷川定郎については、昭和六二年三月ころから被申請人との間で紛争があり、ほとんど本件工事に従事していないので、昭和六一年一二月分から同六二年二月分まで)に被申請人から申請人らに支払われた報酬の月額平均支給額は、申請人田宮正輝が金七〇万三一五〇円(この間の、ガソリン代、車輌費、材料代等の月額平均経費は、金一六万六〇〇〇円)、同永田利雄が金七三万八七七三円(同金一五万九〇四〇円)、同原野清が金六六万五八六七円(同金一六万一七〇二円)、同中田勝康が金七七万二七三円(同金一八万四七〇八円)、同藤原修三が金九二万四七九一円(同一七万七二七〇円)、同長谷川定郎が金五五万九七三三円(同一七万九〇〇〇円)、同田宮政秀が金六〇万五七三三円(同一四万五〇〇〇円)、同竹田和克が金七三万五三〇八円(同二三万九八〇〇円)であり、これらの総支給額から必要経費を控除した手取額は、別紙平均賃金目録記載のとおりであること、他方、被申請人の作業職(現業)社員の給料は、基本給、年令給、諸手当等によって算出され、社会保険料、公租公課等の徴収がなされており、昭和六二年四月現在、最高で月額金三九万一一四三円(勤続年数約一三年、年令五九才)であること、申請人らは、右のとおり報酬について右源泉徴収がなされていなかったので、所得の申告については自己申告をしていたこと、また、申請人らは、労災保険に加入していなかったこと、

2  ところで、当該契約が雇用契約であるか否かは、契約の形式にとらわれることなく、その契約関係の実体に則して検討し、当該当事者間における実質的使用従属関係の存否を基準にして判断するのが相当である。

そこで、これを本件について検討する。

右認定の事実によれば、申請人らが、自己所有のトラック、工具を使用し、自から調達した砂、セメント、ブロック等の資材を用いて、被申請人から交付された仮設トイレ等の設置及び解体撤去工事を行っていたことが明らかであり、外観的には請負契約の履行と解される余地もなくはない。

しかしながら、右認定の事実によって認められる本件契約締結の経緯や申請人らの行う本件工事の実体に則して考察すると、申請人らは、本件契約締結に当って、履歴書を持参のうえ面接し、被申請人側で予め定めた諸条件を承諾する場合にのみ契約に至るのであり、また、申請人らは、被申請人の営業に不可欠な仮設トイレ等の設置、解体搬(ママ)去工事の現場工事人として、その営業組織に組入れられ、被申請人の受注した仮設トイレ等の設置、解体撤去工事に合せて、その指定する時間、場所で、その指定する方法で、かつ、個々の工事に関する工事内容の報告を義務付けられ、通常、少くとも午前九時から午後三時ころまでは時間的拘束を受けて、長年月継続的に(長い者は二十数年にも及んでいる。)本件工事に従事してきたのであり、さらに、その工事に対して支払われる金員のうち、申請人らが負担すべき諸経費を控除した部分は、本件工事の労務に対する対価と見られるのであって、これらの諸点を併せ考えると、前記の、申請人らが自己所有のトラック、工具を用い資材を提供している点を考慮しても、申請人らは、本件工事に関する限り、被申請人の拘束支配下にあり、その一般的指揮監督に従っており、自己の責任と計算において、自由に自己の労働力の対価を得るといった関係にはなく、したがって、申請人らと被申請人との間には、実質的使用従属関係があると解するのが相当であり、自己所有トラック等の使用あるいは資材の提供等は、被申請人側の経営上、業務上の都合に由来した一方的な指示によるものであって、申請人らからすれば、右契約上の労務提供のための手段方法にすぎないといえよう。

右によれば、申請人らと被申請人間で締結された本件契約は、雇用契約というべきである。

もっとも、申請人田宮正輝は、田宮商会の名称を用い、電話番号帳(<証拠略>)にも同名称で登載されていることが疎明されるが、本件疎明資料によれば、同申請人は、同名称を用いて、他に業を行っていたものでないことが疎明されるので、右登載の事実も前認を左右するものではない。

また、本件疎明によれば、本件契約について、申請人竹田和克と被申請人間に、工事発注規約(<証拠略>)が作成され、その形式的文言によれば、本件契約が請負契約であるとの前提に、諸条項が記載されているが、前記のとおり、本件契約の実体が従属的使用関係の認められる雇用契約がある以上、形式的な契約書等の存在によって右実体的性質に影響を与えるものではなく、雇用契約の成立を否定すべき資料とはならない。

次に、本件疎明資料によれば、申請人田宮正輝は、昭和六〇年一二月から同六二年二月までの間に、合計約一〇回にわたり被申請人から仮設トイレ等合計約一三件(うち一件はホルソ)、合計金約三三万四〇〇〇円相当を、申請人永田利雄は、昭和六二年一月三一日に被申請人からユニクロ、ホルソ合計金七一〇〇円相当を、申請人藤原修三は、昭和六〇年一二月から同六二年五月までの間に合計約六回にわたり、被申請人から仮設トイレ等合計約四四件(うち一件はホルソ)、合計金三二万四〇〇〇円相当を、申請人長谷川定郎は、昭和六〇年一二月に物置一棟を金五万円で、申請人原野清及び同竹田和克は、昭和六二年一月に、それぞれホルソを金五〇〇〇円で、各購入したことが認められるが、他方、ユニクロは仮設トイレ等の設置に必要なネジであり、ホルソは本件工事に必要な工具の一種であり、また、右申請人らが右仮設トイレ等を購入したのは、自己使用あるいは知人、友人からの特別の依頼によって購入転売したものであることが疎明されるので、取引の趣旨、回数、取引額、その期間等からみて、右各取引が業としてなされたものとは、到底解し難く、右取引の存在から、申請人が独立して事業を営み、あるいは兼業をしていたと解することは困難である。したがって、右取引の存在も本件契約を雇用契約と解する支障とはなりえない。

さらに、前認定のとおり、申請人らが本件工事の報酬として支払われる金員は、被申請人の経理上、工賃として取扱われ、基本給、諸手当の区別もなく、また、社会保険掛金、公租公課の源泉徴収もされていない等、他の被申請人従業員とその取扱いを異にしていることが明らかであるが、前記のとおり雇用契約判断の基準を契約の実体に則して、使用従属関係の存否に求めるのであるから、報酬の支払いに関する右取扱いの差異の存在も、前認定を左右するに足りるものではない。

また、前認定の事実によれば、申請人らの実質月額報酬(手取額)は、被申請人の他の現業従業員のそれに比して高額であることが認められるが、他方、申請人らには、賞与の支給もなく、また、業務上の都合で早朝に出勤したり、あるいは午後五時以降も羽曳野倉庫に残ることが日常化されているにもかかわらず、これに対する手当も支給されていないこと前認のとおりであるから、これらの事実を勘案すると、申請人らの月額平均賃金額が他の従業員に比して著しく高額であるということはできない。

なお、本件疎明資料によれば、申請人長谷川定郎は、昭和六二年三月四日以降、本件工事をしていないこと、同申請人が右のように本件工事に関与しなくなったのは、同月三日施工の本件工事に関し、被申請人の指示に従わず、自分で定めた順序で工事をしたため、被申請人から、しばらく仕事を休むようにいわれ、以後、被申請人からの本件工事の指定がなされなくなったためであること、昭和六二年五月中旬ころ、申請人らと被申請人との間で、本件工事の単価表の改訂をめぐって紛争が生じた際、申請人長谷川定郎は申請人田宮正輝と共に大阪営業所で同所長と交渉したが、その際、被申請人側から、申請人長谷川定郎との間の本件契約が消滅しているとの指摘もないまま、その交渉がなされたことが一応認められるところであって、右事実によれば、申請人長谷川定郎と被申請人との間の本件契約は、昭和六二年六月二日当時未だ解消されずに存続していたものと解することができる。

三  ところで、被申請人が申請人らに対し、昭和六二年六月二日付で本件契約を解除する旨の意思表示をなしたことは当事者間に争いがないところ、前認定のとおり、本件契約が雇用契約であるから、右解除は実質的には解雇と解すべきであり、したがって、被申請人は申請人らに対し、右同日限り解雇する旨の意思表示をなしたというべきである(以下、本件解雇という。)。

2 そこで、本件解雇の効力について判断する。

被申請人は、本件解雇理由として、申請人らが被申請人らに対し、昭和六二年六月一日、発注予定の本件工事を今後しない旨表明したので、発注者からの損害賠償請求されるなどの損害を被ることが予想された旨主張するので、以下、この点について判断する。

本件疎明資料及び審尋の全趣旨に争いのない事実によれば、被申請人は、数年前から業界の競争が激しくなり、その経営も一段と厳しくなってきたことから、本件工事単価の引下げを検討し、昭和六二年三月一〇日付で、申請人らに対し、工事単価平均四八パーセント、運送賃平均一二・五パーセントの引下げを趣旨とする単価改訂(新単価)の申入をなしたこと、そして、昭和六二年四月一九日を第一回として、以後数回にわたって、申請人らと被申請人との間で交渉が開かれたこと、途中、申請人及び被申請人とも若干の譲歩をしたが、その意見の隔りが大きく、合意に達する見込みはなかったこと、同年五月三〇日に至り、被申請人は、これまでの被申請人の主張が最終案だとして、これに応じない限り交渉を打切る旨一方的に宣言したこと、そこで、申請人らは、六月一日、被申請人に対し、六月二日は全員休んで今後の対応を相談したい旨伝え、同月二日、申請人らが羽曳野倉庫に集まり協議中に、同日午前一〇時ころ、本件解雇の意思表示をなしたこと、当時、申請人らは、六月二日本件工事を休むことに決めていたが、同月三日以降の仕事について、仕事をしないなどと申請人ら間で協議していたこともなく、また、被申請人に、その旨意思表示をしたこともなかったことが一応認められる。

右事実によれば、被申請人の申入れにかかる大幅な工事単価の引き下げは、申請人らにとっては賃金の一方的な大幅引き下げを意味するものであり、数回にわたる交渉にもかかわらず妥結に至らないまま、被申請人側から一方的に交渉を打切られたため、これに対応すべく、申請人らが六月一日に通告したうえ、翌二日に一斉休暇を取り、労働条件の一方的不利益変更申入れについて協議するようになったのであるから、このような事情の許で、右一斉休暇を取ったことはやむを得ない行動であって、このことを捉えて解雇事由とすることは合理性を欠き、許されないというべきであり、また、同日以降の仕事について、申請人らはこれを放棄する意思もなく、かつその態度も表明していないのであるから、その存在を前提とした解雇は理由がない。

したがって、被申請人のなした本件解雇の意思表示は、解雇権の濫用であって、無効である。

四  上来説示してきたとおりであるから、申請人らは依然として被申請人の従業員たる地位を有しているところ、被申請人において、本件解雇によってその地位が消滅したとして、その地位争(ママ)っていることは当事者間に争いがなく、本件疎明資料によれば、申請人らは、被申請人から支給される別紙平均賃金目録記載の賃金を唯一の収入として生計を営んできたことは明らかであるから、本件解雇によって、右賃金の支払を受けられないことによりその生活に著しい支障をきたし、本案判決の確定を待っていては回復し難い損害を被るおそれのあることも優に推認し得るところである。したがって、申請人らの従業員としての仮の地位を定め、その賃金の仮払いを命ずる仮処分の必要性がある。

そこで、仮払いを命ずべき金員の額について判断するに、右のとおり、仮処分において仮払いを命ずる必要性は、賃金を受けられないことにより生ずる生活上の回復し難い損害を回避するにあるから、支払を命ずべき額も現状の生活状態をそのまま維持するに足りる金員ではなく、各人の生活状況に応じて、前記損害回避に必要な最少限度の額で足りるものと解すべきである。かかる観点から各申請人について検討するに、本件疎明資料によれば、申請人田宮正輝は、妻、長女(高校生)及び母と、同永田利雄は妻、長女(大学生)及び姪(高校生)と、同原野清は、妻、長男(高校生)、長女(同)及び二女(中学生)と、同中田勝康は、妻、二女及び両親と、同藤原修三は、妻、長男(中学生)、二男(同)及び妻の母と、同田宮政秀は妻と、同竹田和克は、妻及び長女(五才)と、それぞれ生活を共にし、その生計の維持に当っていること、また、同長谷川定郎は独身で、他に生計を維持しなければならない者はいないことが、一応認められる。

右事実に、その他本件疎明に現われた各申請人らの生活状況等を勘案して考察すると、申請人長谷川定郎については月額金二二万円、同田宮政秀については金二五万円、同竹田和克については金三〇万円、その余の申請人らについては各金四〇万円をもって、現在の危険の回避に必要な仮払い額と認めるのが相当である。

したがって、申請人らは、解雇された昭和六二年六月二日から就労を拒否され、かつ、同月分(翌月払い)以降は何ら賃金の支払を受けていないので、被申請人は申請人らに対し、昭和六二年七月一日以降本案判決確定に至るまで毎月末日限り、右認定にかかる相当額の割合による金員をそれぞれ仮に支払うべきである。

五  よって、申請人らの本件仮処分申請は、仮に従業員たる地位を定めること及び前記認定の各金員の仮払いを求める限度で理由があるから、事案の性質上保証を立てさせないでこれを認容し、その余の申立については理由がないのでこれらを却下し、申請費用の負担については民訴法八九条九二条を適用して、主文のとおり決定する。

(裁判官 田畑豊)

平均賃金目録

<省略>

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